お香・線香の原料について
お香・お線香の原料となる天然香料の中には、漢方薬として使われるものも多数あります。
春香堂は漢方薬問屋に丁稚奉公の後、漢方薬業として独立し、その後薫物香料業に至りました。
ここではお香に使う様々な香料について簡単に解説しております。
お香には欠かせない香木について
伽羅
沈香の最高級品は「伽羅」と呼ばれています。
沈香は常温ではほとんど香りを感じませんが、伽羅は常温でも非常に良い香りがします。
元々産出量が少なく高価な沈香の中の最高級品ですので、伽羅はとても高価な香木です。
東大寺正倉院に収蔵されている「蘭奢待」は、最上級の伽羅とされています。
※成分的には伽羅ではないと言われていますが、もともと沈香や伽羅の判断は、その時代の香道を極めた人々がしているので、最上級の香木であることは間違いありません。
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沈香(アガーウッド)
ジンチョウゲ科アキラリア属の常緑高木の傷口に作られる樹液がバクテリア等の働きによって変質したもの。
比重が水よりも重く、香りを放つ変質部分だけが水に沈むため「沈水香木=沈香」と呼ばれています。
中国から仏教と供に日本に伝えられたと言われており、一木一木で香りが異なる奥深さと香りから文化人や貴族から珍重され「香道」という文化に発展していきました。
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白檀(サンダルウッド)
ビャクダン科常緑樹の幹・根の心材部分。
木の表面、枝、葉は殆ど香りはなく、心材も香りがするようになるまでに最低30年はかかります。
常温で香り、扇子や仏像などに使われていることもあるので、どこかで嗅いだことがある方も多いかと思います。
半寄生の植物、生育に長い時間がかかる事から植林事業は難しく、価格が年々高騰しています。
様々な香りをまとめる働きがあり、お線香には無くてはならない存在です。
白檀のお線香を見る
その他香原材料
桂皮(シナモン)
ベトナム、中国南部のクスノキ科の常緑樹の樹皮。
主にスリランカ産セイロン桂皮をシナモン、中国やベトナム産をカシア、日本産をニッキと分けて呼び香りも若干異なります。
古代エジプトの古文書にも名前が記されていることから、古来より香辛料や医薬品として世界各地で使われていたと思われます。
爽やかな甘みにスパイシーな香りが特徴的で、お線香や匂袋の香料として欠かせない他、チャイやケーキ、カレーなど食品香料・スパイスとしても良く使われています。
また健胃や解熱、鎮痛などの生薬としても重用され、葛根湯や改源などにも配合されているなじみ深い存在です。
藿香(パチョリ)
インドネシア、中国の広東省、台湾で栽培されているシソ科の植物の全草を乾燥させたもの。
芳香性健胃生薬として使用されるほか、石鹸・化粧品・香水等にも使用されています。
温かみのあるウッディ調のエキゾチックな香りで、他の香りを引き立たせます。
墨を作る時に使っているニカワの臭いを消すために龍脳と供に墨作りに使われている香料です。
山奈
中国南部やインドで栽培されているショウガ科バンウコンの根茎を乾燥させたものです。
漢方薬として芳香性健胃生薬、虫歯の痛みに使用されるほか、広東料理・香港料理(その際は沙薑という名称で呼ばれます)にもよく使われています。
おしろい粉のような穏やかな甘い香りですが、燃やすと香りが変わるため火をつけない匂い袋によく用いられるほか、線香の上匂に使われます。
甘松(スパイクナード)
中国・インド・ネパールの山岳地帯で採れるオミナエシ科の根茎を乾燥させたもの。
「ナルドの香油」として聖書にも登場しており、日本だけでなく世界中で古くから使われていました。
海外では甘松から採れる精油をナルド、スパイクナードと呼んでいます。
香りは土っぽさの中にウッディ系動物系の香りが混じったような不思議な香りで、
単体ではあまり良い香りと言えない香りですが、沈香や白檀と合わせると奥深い香りになります。
大茴香(スターアニス)
中国南部、インドシナ半島北部で採取されるモクレン科の常緑樹の実を乾燥させたもの。
スターアニス・八角茴香とも呼ばれており中華料理で角煮の香りつけに使われたり、杏仁豆腐のシロップに使われたりしています。
漢方薬では健胃生薬・去痰剤に使われており、大茴香から抽出されるシキミ酸がインフルエンザの治療薬タミフルの合成原料の1つとして使われているという変わった一面もあります。
爽やかな甘みのある香りで、お線香作りには重要な材料のひとつです。
零陵香(フェヌグリーク)
サクラソウ科の全草を乾燥したもので、強い香りを発します。
他の材料と一緒にしておくと香りが移ってしまうほど強い香りです。
日本ではカレーのスパイスとして使われているくらいですが、産地のインド・中東では豆や葉・芽を料理に使ったりと生活に根差した植物です。
丁字(クローブ)
モルッカ諸島原産のフトモモ科のチョウジノキのつぼみを乾燥させたもの。
つぼみが釘のような形に見えることから「クローブ(フランス語で釘)」と呼ばれるようになりました。
料理の香辛料として欠かせないものでカレーや肉料理の他、お菓子やソースにも使われています。
殺菌作用・軽い麻酔・収れん作用があるため、歯痛・やけど、切り傷に効果のある薬として使われてきました。
お線香として丁字を使うと量によって香りの変化を付けられます。
強く使うと「薬臭い香り」に少し弱めると「スパイシーな香り」に、わずかに使うと「甘い香り」になります。
安息香(ベンゾイン)
エゴノキ科エゴノキ属の樹の幹を傷つけてしみ出た樹脂が乾燥して固まったもの。
この安息香という名前の由来は諸説あります。
1つは読んで字の如く「息を安ずる香りである」というものです。(実際にアロマの世界では呼吸を整えたり、漢方としても去痰剤に使われます)
もう1つは紀元前後に中近東で栄えたパルティア帝国=安息国で使われていた香なのでその国名から名付けられたという説もあります。
安息香はバニラのような濃厚な甘みのある香りが特徴ですが、メインの香りで使うことはあまりなく、お線香の香りを安定させたり、長持ちさせる「保留剤」としての使い方をします。
龍脳(ボルネオール)
フタバガキ科の常緑樹の成分が結晶化したもの。
龍脳が採取できる樹木は幹の直径1m以上、樹高はなんと50mにも達する大木で、樹心部の割れ目の様な空間にできます。
その香りはミントのようなスーッとする清涼感がありながら、甘みと温かみも感じられる優雅で素晴らしい香りです。
藿香と同じく、墨を作る際に使うニカワの動物臭を消すために使われています。
中国の四大美女「楊貴妃」が好んだ香りとして、逸話が沢山残っています。
そんな龍脳ですが、現在は元となる樹木の激減により、天然の龍脳の入手が極めて困難な状況です。
その為、一般に龍脳として流通している香料の多くは、他のクスノキ科の樹木から採取できる樟脳(しょうのう)を何度も蒸溜を繰り返し、限りなく樟脳としての純度を高めたものを”龍脳”と位置付けて流通しています。
乳香(フランキンセンス)
カンラン科ボスウェリア属のゴム状の樹脂が固まったもの。
傷ついた幹から染み出す樹脂が乳のように見えることから乳香と呼ばれるようになりました。
爽やかで清涼感のある香り。
新約聖書ではイエスキリストが生まれたときに東方の三博士が「黄金」「乳香」「没薬」を捧げたと言われています。
教会などでは場を清めるために焚かれ、礼拝堂には乳香の香りがしみついています。
貝香
巻貝のフタを粉末にしたもの。
単品ではサザエを焼いたようなタンパク質の香りがしますが
他の香料と混ぜると、全体の香りを引き立て、香りを安定させて長持ちさせる役割を持つ「保香材」として使われ
煉香の制作には欠かせない香料の1つです。
麝香(ムスク)
雄のジャコウジカの香嚢から抽出される分泌物。
香嚢は発情期に強い匂いを発してメスを誘引する為、麝香も強烈な獣臭が特徴です。
ワシントン条約で捕獲が禁止されており、現在出回っているのは養殖のものか、古い時代に採取されたか、合成ムスクだけになっています。
実際に香料として使用する場合は、アルコールなどの溶媒で1000倍に希釈して他の香料と調合することで、香りが艶やかで華やかな香りに一変します。
龍涎香(アンバーグリス)
マッコウクジラの病的結石。
マッコウクジラが食べたイカやタコの嘴が胃腸を傷つけるので、酵素を出して体内でまとめ排出されます。
捕鯨が行われていたころは、マッコウクジラの体内から捕られていましたが、今ではワシントン条約により現在入手ができなくなっています。稀に海岸に打ち上げられた個体が偶然発見されることはありますが、現在出回っているものはアンバーグリスと呼ばれる合成香料になっており、天然の龍涎香が香料として使用されることは殆どありません。
天然の香原料を使用したお香、お線香はこれらのような多種多様な香料が調合され、生産されています。